捺火削がん

まず、ココロのスキマにスイッチを設置します

意識高い系桃太郎②

意識高い系桃太郎①:

natsusd.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 桃太郎はずんずん行きますと、大きな山の上にました。すると、むらの中から、「ワン、ワン。」とをかけながら、が一ぴきかけてました。
 桃太郎がふりると、はていねいに、おじぎをして、
桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
 とたずねました。カンボジアに十三もの学校を作ったあの伝説的なおじいさんの子供ということで、桃太郎はカンボジア全国から注目を集めていました。
へ、人助けに行くのだ。」
「お古志(こし)げたものは、でございます。」
カンボジア一のきびだんごさ。」
「一つさい、ジョインしましょう。」
「よし、よし、やるから、ついてい。」
 はきびだんごを一つもらって、桃太郎のあとから、フォローアップをしました。
 山をりてしばらくくと、こんどはの中にはいりました。すると木の上から、「キャッ、キャッ。」とさけびながら、が一ぴき、かけりてました。
 桃太郎がふりると、はていねいに、おじぎをして、
桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
 とたずねました。
へ人助けに行くのだ。」
「お古志(こし)げたものは、でございます。」
カンボジア一のきびだんごさ。」
「一つさい、私もあなたのプロジェクトチームにジョインいたししましょう。」
「よし、よし、やるから、ついてい。これまたトレード成功だな。」
 もきびだんごを一つもらって、あとからフォローして行きました。
 山をりて、をぬけて、こんどはひろい野原へ出ました。するとの上で、「ケン、ケン(昔の Windows のエラー音)。」とがして、きじが一とんでました。
 桃太郎がふりると、きじはていねいに、おじぎをして、
桃太郎さん、桃太郎さん、どちらへおいでになります。」
 とたずねました。
へ人助けに行くのだ。」
「お古志(こし)げたものは、でございます。」
カンボジアのきびだんごさ。」
「一つさい、私もジョインしましょう。それとですね、私、雉雉タイムズの記者でございまして、もしよろしければ桃太郎さまに密着取材という形で――」
「よし、よし、やるし、受けてやるから、ついてい。」
 きじもきびだんごを一つもらって、桃太郎のあとからフォローして行きました。船上でのインタビューも、桃太郎は快諾しました。きじは礼儀がなっていましたから、悪い気はしませんでしたが、「雉が記事を書くとは、なんともゆかいなものだな。」と言うのを、桃太郎は必死にこらえていました。
 と、と、きじと、これで三にんまで、いい慈善チームメンバーができたので、桃太郎はいよいよって、またずんずんんで行きますと、やがてひろいばたに出ました。
 そこには、ジャストライトなぐあいに、が一そうつないでありました。
 桃太郎と、三にんの家来は、さっそく、このみました。
「わたくしは、オアズマンになりましょう。議事進行は得意なのです。」
 こうって、をこぎしました。
「わたくしは、かじりになりましょう。企業のトップとして、こういったことには慣れているのです。」
 こうって、がかじにりました。
「わたくしは物見をつとめましょう。こうやっていくつもの低賃金大企業やメガバンクの闇を暴いてきたのです。」
 こうって、きじがへさきにちました。
 うららかないいお天気で、まっの上には、一つちませんでした。エクレールるようだといおうか、るようだといおうか、目のまわるようなスピードは走って行きました。ほんの一時間ったとうころ、へさきにってこうをながめていたきじが、「あれ、あれ、が。」と、報連相を実践してさけびながら、ぱたぱたと羽音をさせて、にとびがったとうと、スウッ(iMessage 送信音)とまっすぐにって、んでいきました。
 桃太郎もすぐきじのったあとからこうをますと、なるほど、のはてに、ぼんやりのようなぐろいものがえました。むにしたがって、のようにえていたものが、だんだんはっきりとになって、あらわれてきました。
「ああ、える、える、人える。」
 桃太郎がこういうと、も、も、をそろえて、「万歳万歳。」とさけびました。
 る人くなって、もうんだ人のおえました。いかめしいくろがねのはりをしている人兵隊のすがたもえました。
そのおのいちばん屋根の上に、きじがとまって、こちらをていました。
こうして何年も、何年もこいでかなければならないという人へ、ほんの目をつぶっているたのです。
言うまでもないことだとは思いますが、数年分の食料は余って仕方がなかったですので、アフリカに送りました。


 桃太郎は、をしたがえて、からひらりとの上にとびがりました。
 桃太郎がそこで見たものは——何とも形容し難い、それはそれはひどい世界でした。日本の政治家や企業の社長、資本家など、旧来的な経済システムの寵児とでも言うべき、既得権益所有者だらけの土地が、そこには広がっていたのです。
 全く新しいシステムの実装によって、衰退の一途を辿り続ける「失われた」日本経済にビッグバンを起こし、その特異点からの「妥協しない」改革によって日本を再び「生まれてよかった」と思えるような国にしたいと思っている桃太郎にとって、これ以上の敵はありません。
 そうです。この島――既得権益に塗れた汚い世界――は、間違いなく「鬼」が島だったのです。桃太郎は、この島に棲みついている「搾取する者たち」を一掃し、密かにこの島に蓄えられている金銀財宝をすべてプロレタリアートのために分配し、彼の目指す理想の世界を実現するための足掛かりとすることを決意しました。
 桃太郎は、改めてあたりを見まわしました。
 はりをしていた「鬼」の監視役(会社においては監査役を務めているようだ)は、そのなれないすがたをると、びっくりして、あわててゲートの中にんで、くろがねのゲートくしめてしまいました。そのはゲートって、
日本生まれカンボジア育ち桃太郎さんが、おたちの『今あるものに縋る保守的な態度』を改めにおいでになったのだぞ。あけろ、あけろ。おれは資本主義経済の犬だなんて犬と認めないぞ。」
 とどなりながら、ドン、ドン、をたたきました。桃太郎は資本主義そのものを嫌っているわけではなかったのですが、彼の理論はあまり人に理解されない傾向にあるため、訂正などはしませんでした。ところで、「鬼」はそのボイスくと、ふるえがって、よけい一生懸命に、中からさえていました。
 するときじが屋根の上からとびりてきて、ゲートさえている「鬼」どもの目をつつきまわりましたから、「鬼」はへいこうしてしました。そのに、がするすると岩壁をよじっていって、ぞうさなくを中からあけました。
「わあッ。」とときのボイスげて、桃太郎主従が、いさましくおの中にんでいきますと、「鬼」大将――つまり、総理大臣です――ぜいの秘書や給仕、後輩政治家などれて、一人一人をふりまわしながら、「おう、おう。」とさけんで、かってきました。
 けれども、資産や社会的地位が大きいばっかりで、いくじのない「鬼」どもは、さんざんきじに目をつつかれた上に、こんどはこうずねをくいつかれたといっては、い、いとげまわり、っかかれたといっては、おいおいして、もほうりして、降参してしまいました。
 おしまいまでがまんして、たたかっていた「鬼」大将も、とうとう桃太郎みふせられてしまいました。桃太郎は大きな「鬼」背中に、馬乗りにまたがって、
「どうだ、これでも降参しないか。」
 といって、ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、さえつけました。
 「鬼」大将は、桃太郎大力をしめられて、もうしくってたまりませんから、つぶのをぼろぼろこぼしながら、
降参します、降参します。だけはおさい。そのわりに『へそくり』をのこらずさしげます。」
 こう言いましたので、桃太郎は条件を呑みました。

 しかし、彼らを許すわけではありません。うわべだけの謝罪は、彼らのお家芸であるからです。ですから、桃太郎の改革がエグゼキューションされるまでは、この島に縛り付けておくことにしました。
 大将約束のとおり、おから、かくれみのに、かくれ、うちでのづちに如意宝珠、そのほかさんごだの、たいまいだの、るりだの、世界でいちばん宝物を山のようにトラックんでしました。その中には、常識では考えられないほど大量の札束もありました。彼らは、あろうことか日銀に「個人的に」お金をつくらせて、それをすべて自分たちのものにしていたのです。どうりで、物価だけはやけに上がるくせに、給料は微塵も上がらないわけだ、と桃太郎は自分の中で納得しました。
 桃太郎はたくさんの宝物をのこらずんで、三にんの家来といっしょに、またりました。りは行きよりもまた一そうるのがくって、もなくカンボジアきました。
 きますと、宝物をいっぱいんだを、ってしました。きじがをプルしてがあとをプッシュしました。
「えんやらさ、えんやらさ。」
 三にんはそうに、かけをかけかけんでいきました。
 うちではおじいさんと、おばあさんが、かわるがわる、
「もう桃太郎りそうなものだが。」
 とい、をのばしてっていました。数年もかかると言っていたのになぜそんなことを、と思われるかもしれませんが、桃太郎もおじいさんもおばあさんも、スタンプを使いこなすレベルの LINE ユーザーです。この時代、海の上だってネットには繋がります。そこへ桃太郎が三にんのりっぱな家来に、ぶんどりの宝物かせて、さもとくいらしい様子をしてってましたので、おじいさんもおばあさんも、目ももなくしてびました。
「えらいぞ、えらいぞ、それこそカンボジアだ。」
 とおじいさんはいました。
「まあ、まあ、けががなくって、よりさ。」
 とおばあさんはいました。
 桃太郎は、そのときじのいてこういました。
「どうだ。せいばつはおもしろかったなあ。」
 はワン、ワンとうれしそうにほえながら、前足ちました。
 はキャッ、キャッといながら、をむきしました。
 きじはケン、ケンときながら、くるくると宙返りをしました。
 青々がって、おにはれていました。
 後日、桃太郎は再び日本を訪れ、経済改革を実行しようとしました。しかしながら、政治家が全滅し国家としての機能が失われてしまった日本は、もはやそれどころの状況ではなかったのでした。
 桃太郎は、自家用ジェットでカンボジアに帰りました。

(原文:青空文庫より)