じゃんけん。
それは、誰もが知っている勝負の付け方。
それは、最も単純で簡単な遊び。
「紙は石を包めるからパーはグーに勝つってのは流石に無理がある」
「ハサミで切れない紙だってある」
ダサい。めちゃくちゃダサい。最も強い言葉で非難したい。
そんな「例え」の話はどうだっていい。グーが指しているものが仮に味玉だったとしても、別に全然関係ない。
現実を見るべきだ。
闘っているのは、皆さんのその手が表す(石とか紙とか鋏とかいうクソどうでもいい)「概念」ではなく、手「そのもの」でしかないのだから。
現実の勝負には、どうしても痛みが伴うもの。
ならば、その痛みを身をもって知るべきではないか。
我々のために闘ってくれる、この健気な両手のためにも。
概要
一般的に「じゃんけん」とされるものは、実際の戦闘を省いた、いわば「省略形」であって、かつては、選んだ手で殴り合いの勝負が行われていた、という事実は、インテリの皆さんならご存知かと思う。
だから、その痛みを知りたい。
「最強の手を決める」なんて無粋な真似はしない。
先人たちが積み上げてきた闘いの歴史、その片鱗だけでも感じてみたいのだ。
ということで、最もその「歴史」を痛感できる――つまり、最も「痛い」――手と手の組み合わせを、この身を以って検証してみせようと思う。
なお、痛みを恐れて「手加減」するなどといったことは断じてしないので、安心してほしい。
検証
① パー vs パー
手を大きく開くパー同士のぶつかり合い。接触面積で言えばナンバーワンといえる。
言ってしまえば、これは大きな拍手を一回だけするようなものだ。
拍手を何十秒も繰り返せるのは、一回一回が非常に「ラク」だからであって、
当然、期待していたような「痛み」はそこにはなかった。
しかし、ぶつかり合った際の衝撃が両手の真ん中から外周へじわじわと拡がっていくような独特の感覚は、代えがたいものがあったと自信を持って言える。
人間は、拍手に「心地よさ」を覚えてしまうのだ。「最後の拍手チキンレース」が行われるのも、拍手の快感を、他の誰よりも長く、出来ることならずっと独占していたいという欲望のあらわれなのではないか。きっと、どんな官能的な表現も、拍手を前にしては太刀打ちなど到底できないであろう。
痛みこそ残念であったものの、そのように思わされる組み合わせであった。
② パー vs チョキ
一般的には、「チョキはハサミで、パーは紙で、紙はハサミで切れるからチョキの勝ち」という組み合わせである。
しかし、この二つを衝突させたとき、私の体の内から、激しい「驚き」が湧き上がってきた。
チョキが、痛い。
正確には、人差し指と中指の間の付け根の、皮膚が若干びろ~んとなっているところ(水かき?)。
ここが、ヒリヒリと痛むのだ。
チョキの「谷間」は、パーの中指の付け根にある骨に衝突した。
そしてその皮膚は、骨の屈強さに打ち勝つことができず、白旗を上げたのだ。
明らかに、チョキの負けである。
長らく信じられてきた「三つ巴の均衡」が早くもここで崩壊する。私は、人類があえて触れてこなかったタブーの領域にまで、意図せず踏み込んでしまったのかもしれない――。
それはさておき、チョキの谷間には、先ほどのパー vs パーなどとは比べるのも愚かと思われるほどの、程よいヒリヒリとした痛みが感じられた。
この痛みも何気に癖になる。マゾヒストを自称しているわけではないが、適度の痛みは人間にある程度いい影響を与えるのではないか、とも思われてくる。
何はともあれ、かくして「パー vs チョキ」は、晴れて痛みの暫定 1 位に躍り出た。
③ パー vs グー
漫画やアニメで、「武闘系」のキャラがよく行っているイメージのあるこの所作。
ぶつかってくるグーを、パーが受け止めているという見方も出来るだろう。
「このポーズの裏に、激しい痛みが隠されているのだとすれば、これを行っていたキャラクターたちへの評価が 30 ほど上がるな……」
そう思いながら、パーとグーをぶつけた。
ん⁉
パーが、結構痛い!
おそらく皮膚が薄くなっているであろう、指が伸びているその若干手前にある、まる~い部分。
ここが、割と ガツン! と痛い!
もちろん、耐えられないほどのものではないのだが、パー vs パー とか、パー vs チョキ がかわいく見えてくるくらいには痛い。
一方のグーは、結構硬い部分が当たっているように思われるのだが、特に痛みは感じない。やはり、パーがグーを受け止めているという考えは正しかったようだ。現実との解釈一致である。
ところで、じゃんけんの手のカップリングはナマモノと言えるのだろうか。そんなことを考えていたら、眠れなくなってしまった(3 時に寝て 11 時に起きた)。
さて、こうなってしまうと、またもや「三つ巴の均衡」に歪みが生じてしまう。先人たちは、何を考えてこれらの手を設定したのだろうか。人類誕生の秘密にまで迫るような壮大なストーリーが隠されているような気がしてならない。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが、武闘系キャラは、この若干強い痛みに耐えながら、この動作を行っているのか。はたまた、手加減をしてしまっているのか。
どちらにしても、「かわいいなアイツら」という感情が芽生えた組み合わせであった。評価は別に上がりも下がりもしていない。
パー vs チョキ の記録を塗り替えて、パー vs グー は暫定 1 位に躍り出た。
現在の順位
- パー vs グー
- パー vs チョキ
- パー vs パー
④ チョキ vs チョキ
折り返し地点である。とうとう左手がチョキになった。
正直こんな殴り合いが行われていたら私は笑ってしまうが、これも当然検証対象の内。
さっそく、ぶつけてみよう。
うん、全うに痛い!
さきほど、パー vs チョキ で、「チョキは、人差し指と中指の間の水かき?に当たる部分がヒリヒリと痛い」と表現したが、
シンプルに、それが両手で感じられて、二倍になっているのである。皮膚ってのはすごく弱い。残念なことだが。
順当に、あいこだなあ、という感じがする。
まあ、運が悪いと指が手の甲のかた~いところにぶつかってしまってさらに痛みが増すのだが、
それを考慮しなくても、明らかに パー vs チョキ よりは痛い。二倍って言ってるんだからそりゃそうだが。
とはいえ、パー vs グー ほどのインパクトがあったわけではない。痛みの持続性という意味では多少勝っているかもしれないが、1 位の座にふさわしい組み合わせではないと判断した。
ということで、暫定 2 位である。まあ、順当といったところだろう。
⑤ チョキ vs グー
チョキのところに、グーがやって来た。
流石の武闘系キャラも、こんなポーズをしたら一気にギャグ要員へと転落である。
チョキの「特に痛むポイント」は水かきの部分であることが判明しているが、グーの「痛むポイント」は完全に未知数である。
なお、本筋からは逸れるが、この記事では既に、長らく信じられてきた「三つ巴の均衡」の関係が二度にわたって否定されている。
本来は、「グーの方が強い」とされる。
また、この対戦は、先ほどパーを打ち負かしたグーと、パーに敗北したチョキの対戦。
単純に考えれば、グーの勝利は堅いだろうと思われるが、果たして結果はどうなるのだろうか。
チョキとグーを、ぶつけてみよう。
⁉⁉
⁉⁉⁉
グーが、痛い‼‼‼
完全に予想外であった。大どんでん返しである。チョキは想像以上に屈強だったようだ!
このようなことが起こったのはなぜか。冷静に分析してみよう。
まず第一に、グーは、チョキの弱点である「水かき」に攻め込むことができなかった。
グーは幅が広く、スキマがないからだ。弱点を制圧されなければ、チョキが痛みを感じる可能性はグッと下がる。「融通の利かなさ」がグーの欠点であったようだ。
そして第二に、ぶつかった時にグーが跳ね返されてしまったことが挙げられるだろう。つまりどういうことかといえば……
チョキは「指を広げる」という動作を伴うが、それにも(体のつくり的な意味での)限界が存在する。どんなに指を広げようとしても、ある程度のところからはかなり困難になるのだ。
そして、グーは、一瞬の攻撃でチョキに「限界突破」を行わせることができなかった。もしこれができていたら、チョキは相当なダメージを負っていたことだろう(なんなら私の指が壊れて検証終了になりそうだが……)。
跳ね返されてしまったとはこういうことだ。チョキの「無意識下での反発」が、グーの攻撃をしのいだ要因の一つであったのだ。
そして、そういった条件下で、「融通の利かない」方がダメージを負うことは明らかである。
かくして、グーは敗北したのだ。
痛みも、パー vs グー のときを明らかに上回っていた。屈強であるぶん、負けるときには激しいダメージを負ってしまう。グーは、「硬い」がゆえにハイリスクな戦略なのであった。
ということで、まあ、当然ながら暫定 1 位である。
⑥ グー vs グー
こういったポーズは、武闘系のキャラよりさらに屈強そうなキャラがたまにやっていることもある気がする。
痛みに耐えてこれをやっているんだとしたら、本当に屈強なんだろうなあ、と思う。
さあ、先ほどの対戦で深い傷を負ってしまったグーだが、
そんなグーとグーがぶつかり合ったとき、一体何が起こるのか⁉
さっそく、ぶつけてみよう!
あっ、痛い‼
シンプルに痛い‼‼
マジで痛い‼‼‼
助けて‼‼‼‼
……正直、対戦前から分かっていた。
チョキとグーでの結果を考えたら、融通の利かない者同士であるグーとグーがぶつかり合ったら、
そりゃあ、さっきの二倍痛いに決まっている。
なんなら、かた~いところが運悪くぶつかり合ってしまうと、
三倍、いや四倍は痛い。
よく考えたら、先ほど言及した屈強そうなキャラも、「ギザギザ」が噛み合うように、ある程度ゆっくりと拳をぶつけていた気がする。
そして、私はとうとう気付いてしまった。
武闘派キャラが パー vs グー のポーズを好むのも、
グー vs グー がめちゃくちゃ痛いと知っているからなのだ。
卑怯な奴らめ……
何はともあれ、コイツは当然、文句なしの 1 位である。
よかったな!グー vs グー !
最終順位
かくして、この検証は終了した。順位は以下のとおりである。
- グー vs グー
- チョキ vs グー
- パー vs グー
- チョキ vs チョキ
- パー vs チョキ
- パー vs パー
結論
「痛み」という形で先人たちの「想い」や「歴史」を感じたいなら、グーをぶつけ合うべし!
人類なら拳で語れ!
おまけ「新・じゃんけん勢力図」
全部逆だった。先人たちは嘘吐きだ。
逆張りの皆さんをダサいとか言って本当に申し訳ない。撤回。皆さんが正しかったみたい。
でもまあ、これはこれで「じゃんけん」としての機能を失っていないし、別にいいんじゃないか?
これからは、ぜひこれを使っていこう。
おわり